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マーケティングプロセスの全工程を「AIエージェント」が支援 電通グループの「AI For Growth」が意思決定の質とスピードを高める

2026/3/10

※この記事は、「日本経済新聞 電子版」で公開されたコンテンツを転載しています。

今や企業のマーケティング活動における各過程で、人工知能(AI)活用が進んでいる。だが、市場の変化が激しさを増し、戦略立案から実装までのプロセスが複雑化・高度化する中、部門でのAI導入ではなく、マーケティングプロセスの全工程をAIエージェントで支援しようという動きがでてきた。dentsu Japan(国内電通グループ)の「AI For Growth」では、同グループが有する大規模調査データや社員の創造的思考方法をモデル化した独自のAIアセットと、AI技術を融合させることで、AIモデルをより深化させている。今日のマーケティングの課題や、AI For Growthの生み出す価値について、電通、電通総研、電通デジタル 3社の担当者に話を聞いた。

高度化・複雑化する
マーケティング業務の課題

藤本 眞一郎

電通
トランスフォーメーション・プロデュース局

【電通の役割】dentsu Japanが長年培ってきたマーケティングの実務知見やデータ、ノウハウを統合し、それを顧客企業の成長にどう結び付けるかを構想・提案する役割を担う。AI For Growthでは、顧客企業ごとの業務プロセスや意思決定の流れを踏まえ、構想段階から実装、現場への定着までを一貫して支援する。

―― 企業のマーケティング部門が直面している課題、AIに求める解決策をどう見ていますか。

藤本 企業のマーケティング部門では、調査・戦略立案・施策設計・実装といった一連のプロセスが年々高度化・複雑化しています。市場や顧客ニーズの変化が激しさを増す中、膨大な仮説検証やデータ分析を短期間で行う必要があり、従来のような人手中心の進め方では業務負荷が増大し、限界が見え始めています。こうした状況を背景に、AIには単なる作業効率化にとどまらず、各社固有のデータや業務プロセスを踏まえた、より確実性の高いインサイト(隠れたニーズ)の抽出や意思決定の質を高める役割が期待されています。

水野 マーケティング活動は、研究開発や営業、サポートなど他部門の業務とも密接に関係していますが、個別最適化されたシステムが導入されてきた結果、データや知見が分断されています。活用できる情報が部門内に閉じてしまい、マーケティング施策に十分に生かされていないケースも少なくありません。そのためAIには、部門を横断して情報を整理・統合し、マーケティングや顧客対応に活用するための基盤としての役割が求められています。

奥山 マーケティングの高度化に伴い、顧客体験のあり方も大きく変化しています。顧客一人ひとりに合わせた、1to1に近いコミュニケーション設計が求められる一方で、企業側の対応はより複雑になっています。こうした状況においてAIには、膨大なデータをもとに顧客理解を深め、いわゆるハイパーパーソナライゼーションを実現するための支援役としての期待が高まっています。

水野 和大

電通総研
クロスイノベーション本部
ソフトウェアエンジニアリングユニット
エンジニアリングテクノロジーセンター

【電通総研の役割】システムインテグレーション(SI)を担う企業としての技術的な知見とシステム構築力を強みに、AIエージェントを支える共通基盤の設計やアーキテクチャー整備を担当。AI技術の進化を前提に、特定の技術に依存しない柔軟な設計とし、将来的な拡張性と安定性を両立させることを重視している。

―― AI活用がAIエージェントへと発展すると、マーケターの業務や役割はどのように変化しますか。

藤本 調査・戦略立案・クリエイティブなど専門領域ごとに役割を持つ複数のAIエージェントが連携し、マーケティング課題に向き合う形になります。マーケターは、問いを設定し、それらのAIエージェントと対話しながら問いからの仮説を検証し、その上でAIからの出力に対しての選択や判断を行う役割へとシフトしていきます。作業を担う比重が減り、意思決定や全体設計により集中できるようになる点が大きな変化です。

水野 その通りだと思います。業務プロセス全体を設計・管理する立場として、AIをどの業務にどう活用するかを定義し、組織に定着させる役割が重要になります。結果として、マーケターの役割は施策実行中心から、より戦略的な判断や推進を担う方向へと変化していくでしょう。

奥山 さらに言えば、AIはマーケティングのみならず、企業の事業変革そのものを支える存在です。マーケターは、事業変革を推進するパートナーとしてのAIエージェントを活用しながら、「変革」を前に進める存在へと変化していくと考えています。

マーケティングAIエージェント

AIエージェントが
再定義するデータの価値

奥山 瑞希

電通デジタル
インテグレーテッド・ソリューションズ領域
AIトランスフォーメーション部門

【電通デジタルの役割】デジタルマーケティング領域における専門性や、現場レベルの業務理解を強みとして生かし、マーケティング・セールス・カスタマーサポート領域まで含めたAI活用の構想策定、コンサルティング、実装(開発・運用保守)を担う。AIをどこにどう組み込むかを具体化し、現場で実際に使われる形へと落とし込む。

――dentsu Japanが持つ大規模調査データや、社内のクリエイターの創造的思考方法をモデル化した独自AIモデルと、AI技術を融合させたAI For Growthを開発した背景を教えてください。

藤本 dentsu Japanではこれまでも、AIペルソナやAI定量調査など、マーケティング領域におけるAI活用サービスを継続的にアップデートしてきました。そうした取り組みを通じ、AIを部分的に使うのではなく、マーケティングプロセス全体に組み込む必要性を強く感じるようになりました。蓄積してきたデータやノウハウをAIエージェントとして体系化し、顧客企業にも提供できる形にすることを目指した結果、AI For Growthの開発に至りました。

AI定性調査 ※People Model(電通独自データ)活用

AI定量調査 ※People Model(電通独自データ)活用

奥山 我々のグループには、マーケティングを単独の活動として捉えるのではなく、その先の営業や顧客接点までつなげていく視点が重要だという共通認識があります。AIを活用することで、マーケティング活動の成果を事業成長へと、より結び付けやすくなります。そうした出口を見据えた取り組みとして、グループ全体でAI For Growthの開発を進めました。

水野 私も、研究開発やコールセンターなど様々な領域でAI活用が進む中、マーケティング部門と他部門をつなぐ必要性を感じていました。各領域で得られたデータやAI活用の知見を統合し、実務で使える形に整理することから着手し、マーケティングを起点に部門横断で活用できる共通AI基盤の実現を目指しました。

―― AI For Growthは、どのようなステップでマーケティングの業務プロセスを変革していくのですか。

藤本 AI For Growthの特徴は、AIのシステム基盤を一方的に導入するのではなく、顧客企業とdentsu Japanが共同でAIエージェントを活用しながら、実際のマーケティング課題に即して検証を進めていく点にあります。初期段階では、調査や戦略立案、施策設計といった業務の中でAIを試行し、その企業ならではの業務プロセスや意思決定の流れ、保有データの特性を整理していきます。その過程で、AIエージェントに必要な知見やデータを段階的に組み込み、実務で本当に使えるかを見極めながら、最終的に顧客企業の環境に合わせて実装し、業務全体の再設計につなげていきます。

水野 業務プロセスの変革においては、AIをどの工程に適用するかを慎重に整理することが重要です。AI For Growthでは、マーケティング業務を分解し、分析や仮説立案などAIが得意とする領域から段階的に導入します。その上で、人が判断すべき領域や人の創造性が求められる工程を明確にし、役割分担を整理します。こうしたステップを踏むことで、現場に無理なくAIエージェントを定着させ、業務全体の質とスピードを同時に高めることが可能になります。

奥山 代表的なユースケースとしては、調査から施策実行までのマーケティング業務を一貫して高速化する取り組みがあります。AIエージェントがインサイト抽出や施策案の整理、効果予測などを担い、人が最終的な意思決定を行います。これにより、戦略立案から実行、改善までのサイクルを短期間で回すことができ、マーケティング活動全体の精度や再現性の向上につながっています。

マーケターが判断と
創造に集中できる未来へ

―― AIエージェントの導入により、既存データの価値はどのように変わりますか。

奥山 これまで十分に活用されてこなかった非構造化データ(音声や動画ファイルなど、サイズや性質的にデータテーブルに収まらないデータのこと)が、AIによって整理・解釈され、リアルタイムで意思決定に活用できる資産へと変わります。信頼性の高い企業独自データは競争優位性の源泉となり、マーケティング戦略の精度を高めます。

水野 加えて、データの整理や分析が自動化され、施策立案や改善に直結する形で使えるようになります。データをどう生かすかという視点が明確になり、マーケティング戦略の実行力向上につながります。

藤本 マーケティングでは、企業の独自データを軸に外部データをどのように掛け合わせるかが重要です。AIエージェントを活用することで、戦略立案から施策実行、効果検証までのPDCA(計画・実行・評価・改善)を高速で回し、データを継続的に活用するサイクルを構築できます。

水野 AI For Growthはマルチプラットフォームに対応しているので、特定の技術や環境に依存せずに導入できる点も重要です。実務への適用が進めやすくなり、その結果、AIエージェントを一時的な施策ではなく、継続的に活用できる仕組みとして根付かせることができます。AI技術は今後も急速に進化していくため、将来的なモデル変更や新ツールとの連携に柔軟に対応できる設計が不可欠です。

―― 今後、AI For Growthをどのように発展させていくのか。展望をお聞かせください。

藤本 AI For Growthを通じて、マーケティング業務全体を支えるAIエージェントの実装と活用をさらに進めていきます。業務効率化にとどまらず、意思決定の質とスピードを高めることで、マーケターが本来注力すべき判断や創造的な業務に集中できる環境づくりを支援していきたいと考えています。

水野 技術面では、将来の進化を見据えた基盤づくりを重視し、拡張性と柔軟性を備えた設計を進めていきます。新しい技術や要件にも対応できるサービスとして発展させていきたいと考えています。

奥山 顧客企業の変革に伴走するパートナーとして、マーケティングを起点に事業成長へ貢献していきます。AI For Growthを通じて、企業が持つデータや知見を最大限に生かし、クライアント様の競争力強化につながる取り組みを継続していきたいと思います。

―― 本日はありがとうございました。

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