dentsu BX|dentsu Japanのビジネストランスフォーメーション

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dentsu Japan 新CEOの佐野傑が語る、広告コミュニケーションの拡張

※この記事は、2024年8月19日「Agenda note」で公開されたコンテンツを一部編集し、掲載しています。

企業のトップに、新たに就任したリーダーが考えるビジョンや戦略を深掘りし、彼ら・彼女らの挑戦と展望、企業の未来を紐解く新連載「NEW CEO INTERVIEW」がスタートする。

第1回は、2024年1月1日にdentsu Japan CEO 兼 株式会社電通(以下、電通)代表取締役 社長執行役員に就任した佐野傑が登場する。

佐野は、これまで電通の執行役員(ビジネスプロデュース統括)やdentsu Japanの執行役員(BX/DXコンサルティング統括)などを務め事業変革をリードし、電通グループ全体のグローバルなビジネストランスフォーメーションを統括する立場で、グループ全体の成長に注力してきた。常に広告業界の未来を見据える佐野にとって、今後の業界はどのように見えているのか、就任半年で注力している事業やその成果、AI活用の可能性、広告領域以外の事業に感じている可能性、「“真の”Integrated Growth Partner」になるために必要なこと、今後の展望などについて詳しく聞いた。

 

拡張する3つの価値提供領域と変革の兆し


―― dentsu Japan CEO 兼 電通 代表取締役 社長執行役員に就任されてから約半年が経ちました。就任後に取り組まれた事業と、その成果をお聞かせください。

 私たちは、複雑化・高度化する企業課題から本質的課題を見出し、統合的なソリューションを提供していくIGP(Integrated Growth Partner)となることを目指し、コンサルティング領域なども含めた多様なサービスとソリューションの統合力で顧客や社会に貢献していこうとしています。
 

dentsu Japan CEO 兼 電通 代表取締役 社長執行役員
佐野 傑

1970年、神奈川県生まれ。92年東京大学経済学部卒業後、電通入社。ビジネスプロデュース部門を中心に多岐に渡る業務を担当。
2021年、電通 執行役員に就任。その後、イグニション・ポイント、電通コンサルティング、ISID(現電通総研)など国内グループ会社の取締役およびマーケティング・プロモーション、BX/DX領域を管掌。
22年より、電通 統括執行役員および電通ジャパンネットワーク(現 dentsu Japan)執行役員として、国内ビジネスプロデュース部門およびBX/DX領域を統括。
23年より電通グループ グループ・エグゼクティブ・マネジメントとして、グローバル全体のBX CEOを兼務。
24年、dentsu Japan CEO 兼 電通 代表取締役 社⾧執行役員に就任。


 特にトランスフォーメーション(BX & DX)、マーケティング(AX & CX)、コンテンツ(Sports & Entertainment)と3つの価値提供領域を設定し、ケーパビリティの進化と拡張を進めています。
 

dentsu Japanが注力する3つの「価値提供領域」


 そうした中で、私たち自身の事業変革と持続的な成長に取り組んでいます。AX(Advertising Transformation:高度化された広告コミュニケーション)、BX(Business Transformation:事業全体の変革)、CX(Customer Experience Transformation:お客さま体験の変革)、DX(Digital Transformation:マーケティング基盤の変革)という4つの事業変革を推進し、変革と成長のサイクルを生み出そうとしています。
 

 dentsu Japanが掲げる「事業の変革と成長モデル」


 変革の兆しは見えてきました。私たちの中核事業の1つである広告を含めたAX領域は、かなり回復してきた印象です。私たちが長らく得意としてきたテレビ、そしてデジタル関連の事業は2023年に少し伸び悩みましたが、2024年の上期は好調です。デジタル関連は市場の成長率以上に伸長しています。BX、CX、DX領域は、近年堅調に推移しています。

 組織風土の進化と変革も進んでいます。さまざまな取り組みが自発的に生まれ、企業文化に磨きがかかってきたと実感しています。実際にクライアントやメディアからも「電通さん、元気になってきたね」と言っていただけています。それが結果的に、私たちを選んでいただけることにつながり、業績にも徐々に表れてきていると感じます。

広告以外にも領域を広げている狙いとは


―― AXの領域が回復してきた理由は何でしょうか。

 私たちの強みは、テレビやデジタル、クリエイティブ、メディア、データなどのアセットを統合して提供し、クライアントのマーケティングROI(投資収益率)の向上を実現できることです。クライアントのニーズが多様化する中、マーケティング領域全体に関わる仕事が増え、結果としてAX事業が回復してきました。

 BX、CX、DX領域も拡大しています。飛躍的な成長のため、トランスフォーメーション(変革)の実現に多くの企業が取り組んでいます。私たちは広い領域からクライアントの成長をサポートし社会全体の成長に貢献していくことを使命としており、実現できると信じています。私たちが実現しようとしている「事業の変革と成長モデル」では、4つの領域の専門性を基盤に、領域横断の連携によって事業に変革と成長のサイクルをもたらすことを目指しています。この好循環が、AXを含む各領域の成長に寄与し始めています。

―― BXとDX領域で、佐野さんのどのような経験を生かしているのでしょうか。

 長年のビジネスプロデューサーとしての経験の中で、クライアントの変化を常に意識してきました。その中で培ってきた「視座」が事業変革を推進する上で役立っています。

 最近は企業の課題が複雑化していると実感しています。たとえば、人間の身体で腰に痛みがあったとしても、その原因は必ずしも腰の筋肉によるとは限らず、内臓や骨も原因となっていることがあります。それと同じように企業の課題もひとつではなく、複合的に絡んでいます。何が原因でどんな解決策が適切か、常に深堀して考え続ける必要があります。

 広告を手掛けていれば、「この商品パッケージの改善案は」「この商品コンセプトは最適か」「売り出すベストなタイミングか」といった問いや課題に直面します。そのうちに「この事業のそもそもの意義は」「クライアントや社会は何を期待しているのか」というように、広告から事業全体、社会全体にまで思考が拡張していきます。こういった思考のプロセスの中で、真にクライアントや社会が求める変革の姿が見えてくるのだと思います。

“人間にしかできないこと”


―― 生成AIの登場により広告領域も大きく変化しています。貴社はAIにも注力し、広告クリエイティブ制作のプロセスをAI活用によって革新する「∞AI(ムゲン エーアイ)」など、AIを活用したさまざまなサービスを提供しています。今後AIに対してどのようにアプローチしていきたいと考えますか。

 AIと人間は互いに協力し“知”を高め合うことができると考えます。AIが得意とするのは左脳的(物事を論理的に捉え処理する)な分野や、大量生産などです。そうした部分はAIを積極的に活用すべきです。一方で効率化によって生まれた時間やリソースを使い、人間にしかできない右脳的(クリエイティブ)な活動により一層注力することが可能になります。


私たちがAIに関して取り組んでいることは、主に4つです。1つ目は、クライアントに向けたサービスでのAI導入です。電通デジタルが中心となって提供する「∞AI Ads(ムゲンエーアイ アズ)」は、運用型広告の広告クリエイティブ制作のプロセスをAI活用によって革新するサービスです。制作プロセスにおいて、効果予測だけでなくクリエイティブの発想、生成、改善の一連の工程をAIによって包括的に支援できます。その他のソリューションも充実している∞AIシリーズを軸に多様なAIサービスを展開しています。

 2つ目は、クライアントへのAI導入のコンサルティングです。企業変革や日常業務の効率化のためのAI活用や、その導入サポートを行っています。電通総研がクライアント向けに、企業内の安全な対話型AIツール「Know Narrator(ノウ ナレーター)」シリーズを展開しています。イグニション・ポイントや電通コンサルティングなど、dentsu Japanが近年強化しているBXチームでも生成AIを活用した組織変革の支援に注力しています。

 3つ目は、私たち自身の業務効率化です。2023年に社内向けにセキュアなChatGPT環境を構築し、社内問い合わせBOTの運用を開始しました。2024年にはよりセキュアな環境整備と多様な生成AIツール導入を行い、私たちの業務に特化したツールの開発も複数進めています。

 4つ目は、AIを広告業界でより安心・安全に活用していけるよう、リーダーシップを発揮していくことです。dentsu Japanでは、AIガバナンスコミッティを設立し、「AIサービス利用ガイドライン」を策定して、経営レベルでAI活用と適正な利用のためのルールづくりを実施しています。またAIの活用方法と関連ルールについて全社向けの研修を設計しました。こうした取り組みを業界全体に波及させていきたいと考えています。

―― “人間にしかできないこと”というのは具体的にどのようなことですか。

 クリエイティビティです。AIは過去のデータを学習し、それを組み合わせることが得意です。一方で、前例のない全く新しいものを生み出すのは、人間ならではの力ではないでしょうか。

 また、人の心を動かして行動を促すことも、人間が得意とするものです。モノを買うのも、組織を動かすのも、結局は人です。AIのCEOがバーチャル映像で発したメッセージと、CEO本人が従業員に向けて熱心に語り掛けるのとでは、受け手の感じ方や組織への浸透の仕方が大きく違うと思います。

 人間とAI、それぞれの長所を生かして協調することで、もっと質の高い仕事ができると思っています。

私たちの強みは統合的なソリューション提供による価値創造

―― 電通グループの売上総利益において、広告以外のコンサルティング事業の領域などが全体の約3割を占めていています。広告以外の事業の可能性についてお聞かせください。

私たちは広告では比較的大きなシェアを獲得していますが、それ以外の領域はまだまだチャレンジャーの立場です。

 近年は業界の垣根が無くなりつつあり、それに伴い私たちが狙える市場が拡大しています。その中で、私たちが広告市場の成長率を上回る成長を実現できているのは、すなわちクライアントの皆さまが私たちの提供する価値を評価してくださっているからだと感じています。私たちの強みは、いずれの起点からでも統合的なソリューションを提供できることだと考えています。

私たちは自らを、「Integrated Growth Partner」と定義し、クライアント・パートナーの皆さまの持続可能な成長と、社会の活力を生み出すことを目指しています。AX(Advertising Transformation:高度化された広告コミュニケーション)、BX(Business Transformation:事業全体の変革)、CX(Customer Experience Transformation:お客さま体験の変革)、DX(Digital Transformation:マーケティング基盤の変革)の4つの領域に加え、将来的にはさらに多方面からクライアントの持続的な成長に貢献できると考えています。

 私たちが長年得意としてきた広告コミュニケーションは人の心を動かす事業です。その強みを生かしながら、すべての領域の価値を統合して提供していくことが私たちの独自性につながっています。

 私は社長に就任する前、グローバル全体のビジネス・トランスフォーメーション CEOを兼務し、BX領域の成長や海外展開をリードしてきました。そこで気づいたのは、海外ではクリエイティブ、メディア、CRM(顧客関係管理)、コンサルティング、システムなど、事業ごとに細かく会社が分かれていることです。一方で、dentsu Japanのように統合的にクライアントにアプローチできる会社は少ないと実感しました。加えて、スポーツ・エンタメ関連の事業も行っている会社はグローバルでは少なく、ユニークな存在だと感じています。

――広告領域における可能性は、どのようにお考えですか。

「広告をやめるのですか?」などの質問もよく聞かれますが、広告は私たちの中核事業の1つであり、現在も業績が伸びている非常に重要な領域です。やめることはありません。現在でも広告に対する投資は増えていますし、時代が変わっても大事なマーケティング手法であることは変わらないと考えています。

 また、近年は広告自体も進化し続けています。テレビは昔から視聴率というデータを取得できていましたが、誰が見ているのかまではわかりませんでした。現在はコネクテッドTVや店頭のリテールメディアによって、誰が見ていて、どのように触れて、購買したのか、その後、同じ商品をリピート購入したのか、ファンになったのかまで把握できるようになりました。今後も広告は進化し続けて、発展していくと考えています。

“真の”Integrated Growth Partnerになるために


―― 統合的なソリューションを提供する「Integrated Growth Partner」として進化するためには、何が大事だと考えていますか。

 今年から「“真の”Integrated Growth Partnerになる」と宣言しています。“真の”と掲げた背景には、Integrated Growth Partnerという言葉をもう一度考えてみようという思いがあります。

 dentsu Japanが掲げる「Integrated Growth Partner」

クライアントに本当の意味でパートナーだといってもらえるのは、そう簡単ではありません。一緒にリスクを取って汗をかいたり、クライアントの望む結果を最後まできちんと実現したりすることで、ようやく“真の”パートナーになり得るのだと考えています。

 大事なのは、「期待」を超えていくことです。期待通りの結果では感動してもらえず、仕事の拡大にはつながりにくいと思います。期待値を超えていくことで、継続的で強固な信頼を獲得することが必要です。

 私たちの強みである“人”という素晴らしい財産を最大限に発揮していくことも大事です。dentsu Japanに在籍する約2万3000人のプロフェッショナルな従業員が自らの能力を最大限発揮し、そして、互いの能力を掛け算しながら価値を提供していけば、必ずやクライアントの期待値を超えていけるはずです。そのためにも、なるべく一人ひとりの多様性を尊重し、その能力を発揮できるような環境とカルチャーを創っていきたいと考えています。

―― その中で、佐野さん自身が特に意識していることはありますか。

 いま申し上げたことを自分自身が体現できているのか、あるいはdentsu Japan全体がそのような環境になっているのかを常に考えています。リーダーとしての視座をもち、国内約150のグループ会社、2万3000人の従業員の未来を見据えていくことを意識しています。

 個人的な話では、日々さまざまなステークホルダーの方々とお会いする際、自分が現場感覚を忘れてはいけないと思っています。その場で思わず提案してしまうことも多いのですが、その時に自分は本当に価値のある提案ができたのかは、すごく気にしていますね。

 加えて大切にしていることは、常に「期待」を超えることです。dentsu Japanに高崎卓馬というグロースオフィサー/エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクターがいるのですが、彼が「笑いの前には必ず驚きがある」と話していました。つまり、「笑う」というような人の感情が揺さぶられる時には、想像を超える、期待を超える、良い意味で期待を裏切る、そういったことが必要なのです。

―― 最後に、今後の展望をお聞かせください。

 広告は進化し続け、マーケティングの中により溶け込んでいくと考えています。とはいえ、広告をやめるつもりはありません。私たちがさまざまな領域で価値を提供できているのは、長年広告でさまざまなノウハウを培ってきたからです。左脳と右脳を掛け算し、常に生活者やクライアント、社会のことを考え価値を生み出していくという、非常に高度なことに取り組んできました。そこが私たちのビジネスを評価いただいているポイントだと感じています。

 dentsu Japanは常に進化し、提供する価値にさらに磨きをかけ、企業の成長に伴走していきます。それによって日本のマーケティングがより洗練され、経済の好循環が生まれ、日本のマーケットが世界に対して大きなインパクトをもたらせるようになっていけばいいなと思いますね。

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